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宇宙天気と銀河宇宙線:

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図2:磁気ロープ(Magnetic Flux Rope=MFR)の構造。

「銀河宇宙線強度の11年周期変動」は長期間にわたる太陽活動の変化が原因ですが、 太陽活動はもっと短い時間内にも劇的に変化します。例えば、ある時突然に太陽表面で 発生する太陽フレアと呼ばれる爆発現象は、数分間という短い時間内に大量の 高エネルギー粒子や電波、X線、ガンマ線などの電磁波を宇宙空間に放出します。 太陽フレアで宇宙空間に放出される膨大なエネルギーが、太陽表面の強い磁場の 持つエネルギーが開放されることにより供給されているらしいことは知られていますが、 その詳しいメカニズムは未だ良く分かっていません。一方で、太陽フレアに伴い 大量の太陽大気(プラズマ)も宇宙空間に放出されていることが分かってきました。 このCME(太陽質量放=Coronal Mass Ejectionの略)と呼ばれる現象は、 以下に述べるように地球近傍の宇宙環境に甚大な影響を及ぼします。太陽活動で 引き起こされる地球近傍の環境変化は、宇宙天気(Space Weather)と呼ばれています。

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図3:地球磁気圏(地球磁場の構造)の模式図。
太陽風によって下流側に尾を引いた構造になっている。
(Space Environment Centerのページから)

CMEで放出されるプラズマは、秒速数千kmという高速で宇宙空間に飛び出します。 CMEを取り囲む周囲の太陽大気は、CMEが太陽表面から離れるにしたがって急激に 密度が下がります。一方CME内のプラズマは太陽表面近くの密度と圧力の高い プラズマであるため、やがて周囲に膨張しながら宇宙空間を飛行することになります。 CMEは太陽表面の磁力線を引きずりながら運動するので、CMEプラズマを取り囲む 磁力線は、図2のような構造をしていると考えられています。この構造はちょうど 糸を撚り合わせて出来たロープのように見えるため、MFR(磁気ロープ=Magnetic Flux Ropeの略)と呼ばれています。MFRは太陽近くでは非常に細いと考えられますが、 上で述べた膨張により、太陽から1AU(天文単位=Astronomical Unitの略で、 約1億5千万km)離れた地球近傍では実に0.1AUにも達します(これは地球を約1千個 並べた大きさです)。またその長さは数天文単位にもなります。MFRは地球近傍で このように非常に大きな広がりを持つため、太陽表面の広い範囲で発生するCMEが 地球に衝突する可能性が高くなります。さて、MFRを伴ったCMEが地球に衝突すると、 どのような影響があるのでしょう?現在最も深刻と考えられているのは、地球磁場に 対する影響です。

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図4:磁気ロープが地球に向かってくる様子。
図の左側が太陽方向で太陽の南北方向の断面を見ている。

ご存知のように、地球は大きな磁石で周囲の宇宙空間に磁力線を張り巡らしています (図3)。地球の磁力線は、地球の赤道面を南から北へ(図の下から上へ)貫く向きに 走っています。ふだんは、この磁力線が太陽から常時噴出している太陽風プラズマ、 高エネルギー粒子から、地球を保護してくれているのです。さて、この地球に、 上で述べたMFRが、図の左側にある太陽から地球に向かって飛来するとします。MFRは 磁力線を撚り合わせた構造をしているので、その断面の磁力線は図4のように 渦巻きのように見えます。この渦巻きが図のように「右巻き」の場合、MFRの地球側 (右側)の磁力線は南向き(下向き)で、北向き(上向き)の地球の磁力線とは 逆向きになります。このような時、地球の磁力線がMFRの磁力線とつながる「磁力線の つなぎかえ」が起こると考えられています。この「つなぎかえ」によって、地球磁場の 大規模な「変化」が引き起こされます。「ファラデーの(電磁誘導の)法則」により 導体内の磁場が変化すると電流が流れますが、地球磁場が変化すると、地球大気上層の 電離層とよばれる「導体」に大電流がながれ、この電流の作る磁場が地球表面の磁場も 大きく変化させます。これが地磁気嵐です。

地磁気嵐により地球表面の磁場が劇的に変化すると、やはり「ファラデーの法則」に よって、地表に網の目のように張り巡らされた送電線網に大電流が流れて変圧器などを 破壊し、広域停電の原因となります。1989年3月、最も深刻な事故が実際にカナダで 起こり社会問題となりました。この他にも、地磁気嵐は、石油パイプラインの劣化、 GPS衛星による位置決定精度の低下(交通・輸送システムに影響します)、航空機 パイロットや旅客の放射線被爆等、様々な影響を人間社会に及ぼします。近年、 地磁気嵐の発生を出来るだけ早く察知し、対策を講じることで被害を最小限に 留めるため、「宇宙天気予報」の必要性が広く世界中で認識されるようになって きました。しかし残念ながら、「予報」を精確に行えるシステムは、現在のところ 未だ確立されていません。